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「お点前の研究〜茶の湯44流派の比較と分析」 - 2015.06.22 Mon

H24年に「近現代における茶の湯家元の研究」を出された廣田さんが新しい本を上梓された。


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初めてお目にかかったとき、多数の流派の点前ひとつひとつを、その類似性、相異性について、統計学的手法で解析した論文(の草稿であったか?)を拝見した。当時茶道の流派はせいぜい4〜5流派しかしらなかった私にはそれだけ流派があることにも衝撃であったし、それを分類して、ある傾向が導き出せる、ということに驚嘆した。そんなことした人はいままでいなかったのではなかろうか。流派違いの人にお点前を公開するのを快く思わない人がいることは容易に想像でき、ときに門前払いをくわされながらもくいさがり、これだけの点前を研究された労力はいかばかりであろう。とにもかくにもこうして一冊の本として世にだされたことにお祝いを述べたい。

ちなみに研究対象とされた流派は44流派。中には不明にして初めて聞く、という名前の流派の方が多い。さらに対象となった点前は、奥伝からいくと一番末端で一番ヴァリエーションがあると思われる「風炉薄茶点前」。

点前手順を33項目に設定して違いをコード化しているのだが、実はその点前の違いを見るのが一番楽しかった。
武家点前に対しては礼の仕方や帛紗さばきの違いなどは想像できるものの、茶碗の仕込み方(茶筅が上向きとか茶杓の先まで上向きとか)のヴァリエーションには、あくまで裏千家(を習っているもの)目線では「ありえねえ!」といいたくなるようなものまである。

さらにそのコード化したデータを統計学的手法で解析、グラフ化し44流派を系統化、流派の類似性・相違性を目に見える形で提示する、というのは本邦初の試みだと思う。解析の具体的方法などは統計学がさっぱりワカラン私には正直読んでもよくワカランかったです。まあ、ここの部分は論文としては肝要な部分ながら、読み飛ばしても十分おもしろい。
千家系と非千家系がきれいにグラフ上でわかれているのは感動モノです。ただ遠州流が特異点になっていて、裏千家からいちばん親和性が薄いというのは意外。お点前を拝見したことがあるがそんなに違和感なかったので。少なくとも石州流系よりは裏千家に近いような気がした。
(このグラフ多用のためもあってか、茶の湯関係の本でありながら横書き、というのにもびっくり)

33の項目ごとの解説がまた興味深い。襖の開け閉めのし方、柄杓の構え方などは筆者御本人がモデルとなっての写真まで載っているのでこれは楽しい。そしてそういう所作が事例として書かれている古典の茶書文献の紹介まであり。いったいどれだけ厖大な文献にあたられたのか。理系の文献調べとちがって古語でかかれたそれらを読みこなすのがどんな作業なのか考えただけで頭くらくらしそう。

茶書の年代順検討から、現在にいたるまでに点前所作に変化がおきていることが非千家系(主に武家茶系)よりも千家系でおこっていること。他流をそれほど知っているわけではないが、裏千家の点前は一番所作としてはシンプルだと思っていたが、この本にもそのように思う人が多いと書かれていてやっぱり、と思った。歴史がくだるにしたがって要らない物をそぎ落としてそぎ落として合理的にしてきた流派のように思う。事実私が学生時代だったウン十年前とくらべてさえ、より簡略化された所作もある。古い先生はこう教えただろうが、今はこうです、と言うセリフをあちこちで聞く。

変化の要因は簡略化だけでなく流派存続のため、というのもあり、例えば完全相伝の流派(石州流各派など)が多岐にわかれすぎたのを統合するために点前を変化させなければならなかった、ということは前著「近現代における茶の湯家元の研究」にくわしい。○○流の看板を掲げているにも関わらず、嫁いできた嫁が△△流でいつのまにか中味が△△流にいれかわっていた、という笑えない話も私は聞いたことがある。
筆者は点前の変化を逆に遡って利休の点前を再現したい、という思いをおもちだったようだが、現時点ではそれはほぼ不可能だとのこと。たぶんこういうイレギュラーな変化もあったかもしれないわけだから。

本書にも書かれているとおり、風炉薄茶点前という一番簡略化された点前ではなく、もっと大もとの奥伝、台子などの上級の点前の研究できればあるいは変化する前の古い点前にたどりつける可能性もあると思う。他流派の献茶式を拝見するに、いわゆる台子点前はあまり変わらないな、と感じたし。ただし、他流派へのりこんで奥伝の点前見せて下さい、と言ってもまず門前払いだろうから、これは方法的にむつかしいだろうな〜。

こうした所作の多様性をみると点前所作はなんでもアリ、という気もしてくるが筆者曰わく、目に見える大きな違いに増幅されてすごく違うようにみえる点前も実は75%くらいは同じなのだと。いわれてみればなるほど。とにもかくにもお茶は一服たつわけだし。

筆者の締めくくりの言葉は「、、、茶の湯の形態においても考え方においても、多様性というひとことでは表現しきれないほどの多様性、これは茶の湯文化の豊かさの一つのあらわれではないか、、」
昨今茶の湯に限らず自分の考え方だけが正しい、と思い込む人が多いなか、この言葉をかみしめたい。

最後に「資料編」の各対象流派の系譜がすごくお役立ち。他流派の歴史はほとんど知らないのでこれは勉強になった。事典として活用できることうけあい。




関連記事

● COMMENT ●

お目通しいただき感謝です

 読みにくい本をお目通しいただき、まことにありがとうございます。過日、茶の湯文化学会大会でK先生から、著者の立場が揺れていて読みにくいと苦言を呈されました。それぞれの流派に配慮して玉虫色にせざるを得ないので、苦労したのにと思いながら承りました。
 一方、O先生から拙著について話をききたいとのことで、去る21日に少しお時間をいただきました。お話ししながら、部分的に焦点を当てた解説みたいな本を書かないといけないかなと感じました。ご指摘の点、考慮いたします。まずは御礼まで。

ひえん様

私的ブログですので書きたいことを書きました。お目障りな部分もあったのでは、、と実は冷や汗ものでアップしました。学術論文としてはどう評価すべきかは専門家におまかせです。しろうとなので読んでおもしろいかどうかが一番重要で、その点とても興味深く面白く拝読できたのは確かです。御本、お送り下さりありがとうございました。そしてご苦労様、と、おめでとうございます、の言葉を。

しぇるさん、こんにちは

今回も、また、造詣深き記事

うむむ・・・と

知識なき私でも、うなってしまう^^;

いま、中央図書館で

葉室燐氏の、茶の湯の世界を舞台とした時代小説

予約してまして、早く、順番廻って来ないかな^^;

高兄様

山月庵茶会記ですか?
文庫本になるまで待とうかなと。
高兄さんおすすめの「修羅走る関ヶ原」はまだげっとできていませんが、同じく祇園で話題になった「花鳥の夢」、ただいま読んでる最中です(^-^)

私も難しいところはちょっと飛ばして拝読致しましたが、地道で緻密な調査研究に基づいた丁寧な論文で大変読み応えがありました。家元の研究よりもお点前の研究の方が先だったのが、此の度のご本になって本当におめでとうございます、ですね。
初めてお会いした頃、バスの待ち時間も惜しんで読書なさる姿が印象的でした。
一昨日、遠州流の茶室でお茶を頂いて、このご本の話をしたら「その方、僕のところにも来られましたよ。よく存じ上げています」ということでした。何だか知ってる人が繋がって嬉しかったです。

しぇるさん、再び、こんにちは

>山月庵茶会記ですか

おお、流石、才女しぇるさん

そうなんですよ~

黒島藩シリーズの第三弾です

第二弾の「紫匂う」も、傑作でした

ぜひ、女性陣に読んで頂きたい本です^^

そらいろつばめ様

茶縁はどこまでもつながっていきますね(^◇^)
こうして共通のお茶友さんの著書についてお話しができるのもうれしいことです。
家元、お点前ときて、第三弾はなんでしょうね〜。
ますますのご活躍を祈ります。

高兄様

特に京都が舞台の歴史小説は地名を読むだけでどきどきわくわくです。
頭の中であのあたりの景色は〜、、、と思い浮かべながら読むのがとても楽しい。行ったことない地名も多いですが。これに茶の湯が絡めばさらにベター>^_^<
読書家の高兄様、またおもしろい本、教えてくださいね。

統計学と系統学

 またまたひえんです。少しむつかしいことを申し上げます。

 拙著の第2章「多変量解析による分析」は統計学、第3章「文化系統学による分析」は生物進化の研究から生まれた統計学による分析です。どちらもまったく同じデータを基にして検討しております。学問の素養からしてコテコテの文系である私は(そんなことに自信を持つか!)、分析には先達のご協力を得ました。

 統計学は「現在の状況の分析」、系統学は「過去からの系譜の分析」を示しているとされます。しかし、私としては、どちらの結論にも納得できる部分と疑問が残る部分があります。なお、そのあとに文献を用いた分析をしてます。

 しぇる様ご指摘の遠州茶道宗家の位置づけですが、たしかに統計学では遠くになります。しかし、系統学では石州系流派のなかに紛れ込んでしまいます。これも悩ましいところです。

 このあたりはどのような方法を選択するのかという問題に結びつきます。ただ、私の手に負えなくなっております。今後は古文書の分析を基に考えてまいりたいと思います。

ひえん様

さらなるご解説、ありがとうございます。
統計学、系統学のアプローチの違いはなんとなくわかるのですが、それ以上は正直ギブアップ!です。(理系だけどスミマセン)
これだけの本を書かれたご苦労がさらにさらにわかるような気がします。
流派の分析にまた違うアプローチをされる予定なのですね。このテーマはとても興味深くおもしろく、おそらく他の研究者ではできないものだと思いますので、また続編を楽しみにしております。


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