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2013-01

「近現代における茶の湯家元の研究」 - 2013.01.13 Sun

数年前、ご縁があり、ご自宅のお茶室でお茶を点てて下さった廣田吉崇さんが、かねて大学院で博士論文としてまとめられたものをついに上梓された。

家元(画像はクリックで大きくなります)

「近現代における茶の湯家元の研究」

むつかしそうだし、読むのに時間がかかるかな、と思ったのは全くの杞憂で、研究論文でありながら読み始めるととまらなくなり、一気に読破。
ついつい家事もうっちゃって読破した宮尾登美子さんの「松風の家」以来の興奮。

おもしろおかしい筆致で書いておられるわけではなく、淡々と、むしろご自分の意見や感情は極力出さないような文体であるにもかかわらず、のめりこんだのはひたすら研究対象自体のおもしろさ。
そして、いくども熟読されたであろう参考文献・資料の厖大なデータに裏打ちされていることによる信憑性、それはあたかも理系の論文を読むが如しなのだ。

特に近代(特に江戸中期以降)以降の茶道のたどってきた道は私にはほとんど未知の世界で、たくさんの知識をこの本からいただいた。

廣田さんはお若い頃から、お茶は石州流の一派・鎮信流を嗜んでおられる。
先にお招きいただいた時に初めて拝見、、というか初めて知る流派だった。
当時、石州流という流派があるのはしっていたが、その石州流がずいぶん細かく分派していることは知らなかったし、不明にして石州流というのは片桐石州の子孫が家元で教授しているものとばかり思い込んでいた。
(まあ、裏千家でお茶を習っている多くの人が似たようなものだと思う。)
遠州流しかり、宗偏流しかり、、、、


この本は、おおざっぱにわけて3つの柱があると思うのだが、
(あくまで私個人の見解で、まちがって理解している部分もあるかもしれません、、とおことわりして)

1)家元と天皇家の距離・・家元の社会的地位の近現代における歴史的変化をあらわすのに、天皇との距離を指標として考察する、というのは斬新。
明治維新で武家社会の茶頭としての扶持=収入の道を絶たれた家元が、いかにして生き延びてきたかという歴史がおもしろい。特に裏千家の近代史はビジネスサクセスストーリーともいえる。国際化を早くに推進してきた先見性は以前から納得しているところながら、その経緯がわかってなおなお納得。
皇室が家元をある意味「利用」した時代があった、というのは目からウロコ。
「貴紳の茶の湯」と「流儀の茶の湯」の分け方が私には新鮮で、とてもすっきりして得心でき、気に入っている。

2)近代、特に明治維新以降の中小流派の苦悩・・流派統合の成功例、失敗例など読んでいて涙ぐましくなる。
(こんなにたくさんの流派があって、どういう流れで伝承されてきたか、ここで初めて知ることばかり。)
「統合」というのが「技芸の統合」ではなく「流祖の家系の統合」という手があったか。
ここまで点前手技が細分化されると、同じ流儀でくくるのは無理があると思うが、そうか、流祖が同じならいいのか。

3)宗旦と利休に血のつながりがあるのか?「利休血脈論争」・・少庵の妻は利休の娘、だから利休のDNAは今の千家に流れている、と今までなんの疑問もなく無条件に思っていた。ところがこれに大きな論争があったとは!
実は素人的にはこの部分が一番興味があった。少庵の妻、宗旦の母・亀はほんとうに利休の娘だったのか?
実は決定的な血のつながりを示す資料はいまのところみあたらず、結局結論はでない、という結論。
利休の侘び茶をよく継いだ宗旦の子孫であることにはちがいはないのだから、別にそこに生物学的血縁がなくても家元の権威はかわらないように思うが、巨大組織を統制するためには大切なポイントと考える人が多かったんだなあ。

むすびに、巧みに時代の波をくぐり抜け、巨大化した家元制度も茶道人口の着実な減少にともなって、今後どのようなシステムになっていくのだろうかという問題提示が。
本の帯に作家・北康利氏の「学術書ながら、企業経営のヒントにもなる」という書評はけだし、正鵠を射ているなあ。巨大化した家元制度の維持・発展=大企業の経営と考えれば。

   *    *   *

以前から家元の存在意義ってなんだろう、と考えることがある。
お茶をするのに、私のような末端の弟子にはほぼ関係のない距離感のある存在なので、いてもいなくてもいいんじゃないか、と思っていた。
けれどはっきりした家元制度をもたなかった中小流派の苦難の道を思う時、やはり家元って弟子すべてを同じ方向性を向かせるシンボルとして必要なのかも、と今回本を読みつつ思った。


数年前、伺ったときには、これでもか?と分化した流派の点前ひとつひとつを、時に門前払いもされつつ実際にご覧になって、その類似性、相異性について、統計学的手法で解析した論文を拝見した。
それはそれで目からウロコの視点を持つ研究で感動したのだけれど、そこから始まった研究をこのような論文に結実されたとは、実にお見事です。

過日廣田さんに、ふたたび客2名という贅沢なお茶会にお招きいただいた。
ほんとうに佳きひとときを頂戴した。
どんな質問にも丁寧に、淡々とお答え下さるお人柄は、この御本の語り口そのものでした。
ご縁をむすんでくれた茶の湯に感謝です。

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