海が見える茶室〜海面の光りを映す - 2021.06.29 Tue
瀬戸内の島に海が前面に見える茶室を鋭意制作中、といっておられた茶友さんの茶室、今年ついに完成して、やっとお招きいただいた。

海沿いの崖に立つ邸宅は見事なまでに南欧の別荘といった感じで、こんなお家の中によもや数寄屋の茶室があるとはだれも思うまい。
ご亭主はヨットマンである。時間があればヨットをあやつりセーリングもすれば魚も釣る海の男なのだが、なぜか茶の湯にめざめて、京都に遊学、マンションに小間の茶室を作ったりされたが、数寄への思いますます深く、ついに瀬戸内のお家にご自分の思うとおりの理想の茶室を作り上げたのだ。
この日はたずさわった大工さん、植木屋さんとご一緒させていただき、マイナー手直しされるところも拝見したが、まあ、よくこれだけの要望を聞いてもらえたねえ〜とびっくりするほど細かく指示されるその情熱がすばらしい。(男が数寄にのめりこむと際限ない例をいくつもしっているが(^_^;)
ただの土だったところに這苔と砂苔、海風直撃で大丈夫なのかと思ったが、毎日朝晩水をやっているとのこと、潮気が洗い流されるのか見事に居着いている。
苔の維持の苦労は知っているので、苔を「お苔様」と呼ぶ気持ちがとってもよくわかる(^_^;
待合に我が敬愛する久松真一先生の短冊、これはうれしい。
乱れ籠を収納する棚も便利で、床柱がご自分で海で拾われたという流木(舟の一部)がすごく不思議な色で雰囲気がよい。実はこの木、海でさらされるうちにできた細かい穴に砂がいっぱいつまっていて、それを抜くのがたいへんだったと大工さん。
そういえば、京都のマンション時代の茶室には、フジツボのついたままの流木で作った炉縁を使ってはったなあ、と思い出す。どこまでも海の男。
二畳台目+一畳相伴席の茶室にはいって思わず歓声がでるのがこの眺め!
貴人口を開け放つと目の前が海なんである。
(ちなみにこの景色は枠が見えないように仕付けたガラス張り越しなのだ!)
写真ではうまく再現できないがこんな景色が見えるのである。正面に見える無人島の名前が茶室の名前になっていた。
もうどこを見てもびっくりで、多分伝統的な数寄屋造りではしないだろうと思われるようなアイデアも一杯あって、使われる材も独特。扁額の板が舟の櫂の一部だったり、落掛けが「矢切の渡し」の艪の一部だったり、掛け込み天井の垂木が節を残した木であり、化粧天井裏が杉皮であったり、垂木をとめるのが刳って溝をつくった丸太だったり、結構奇想天外、ほんとうにいろんな思い入れを全部つぎ込まれたのだなあと思う。
そしてこの茶室の一番の仕掛けは、、、、
夕刻のある時間だけ、海に反射した光が葦戸を通してきらきら土壁の上で踊るのである!この茶室ならではの演出に感激!茶会開始の時間が16時指定だったのはこういうわけなのね。
光りは時間の経過とともに扁額の上を走り、台目の前の土壁を走り、やがて消えていくのである。
ご亭主はいろいろ語りたいので、ということでお点前は茶室が出来てからお茶が好きだということが判明して仲良くなった女性庭師さんにお任せ。
特注の和菓子は銘を「凪」
床の軸(長い軸に対応できる床天井の工夫もすごかった!)は「竹 葉々起清風」
茶杓の銘は「涼風」
主茶碗が「早船」写し
、、、、テーマはズバリ、「ヨット」ですね!
懐石は南欧風の母屋のリビングでいただく。
懇意にされているという板さんをよんで、お料理をだしながら、板さんも席について飲んで召し上がっておしゃべりして、そういうのっていいなあ。ご亭主ご夫妻のおつきあいのお上手さ、人脈、これすべてだれでもウエルカムというお人柄によるものだろう。
なにしろ目の前は瀬戸内、美味しい生きのいい魚がなんでも手に入るのである。このしんじょう、鯛のすり身(ぜいたく!)なうえに中にアワビがはいっているの。
お酒は私の大好きな獺祭の磨き二割三分と三割九分、なんか久しぶりに痛飲したわ。
〆のご飯がもう泣かせる、、、岡山の祭寿司風寿司、ちょっと美味しすぎて食べ過ぎ、夜中にお腹苦しくて、、、
懐石のあとはふたたび夜の茶室へ
これまたよい感じなのである。私は見そびれたが、遠くの島の燈台のあかりも見えたそうな。
ご夫婦と、われわれ三人、お点前さん、板さんもいっしょにお茶をいただき清談になる。
京都ご遊学時代を知っているだけにようやく手に入れはったこのお茶の空間、ご亭主の幸せ具合がわかるのである。
そして一晩泊めていただいて、翌朝さらに大工さんと竹の雨樋のとりつけの位置の確認ディスカッションも拝見し、島をあとにした。
お土産もいろいろいただいたが、お点前をされた庭師さん手作りのヨットクッキーの出来がまたすばらしかったのである。
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