其中庵さんの「伊勢物語」茶事 - 2022.06.16 Thu
今年は「伊勢物語」茶事茶会がおおはやり?
かくいう私も4月に伊勢物語茶事をいたしましたが、なにはともあれ日本の古典文学の教養を共通認識として持つことはとても大事な事だと思う。
実は其中庵さんは伊勢物語ど真ん中のお宝をかねてよりお持ちで、何度かみせていただいたが、伊勢物語の文脈で語られることがなかったのだ。今回それに気づかれて「伊勢物語」茶事を思いつかれた。

待合の軸はやはり<東下り>の富士山ですよね。(狩野探幽)よく見ればテーブルが八つ橋の形になっていて、いけられた花も杜若ではないけど杜若系の菖蒲、いよいよ<八つ橋>
火入れが永楽の冠手(古染めの写し)とくればやっぱり<初冠>(*^_^*)
こちらの屏風が江戸期くらいの三十六歌仙の歌と絵がちりばめられているもので、ちゃんとありましたよ在五中将業平さま。(世の中にたえて桜のなかりせば、、、の歌)
見るたびに植栽の整う露地にて迎付け。
芳中の満月を見上げる公達の絵は画題がないものの、其中庵さんは都より東、伊勢の斎宮(恬子内親王=惟喬親王の妹 いずれも藤原氏の策略で前途を閉ざされている)を思って見ている月ではないかと。私は「月やあらぬ花や昔の花ならぬ 我が身一つはもとの身にして」と思った(この場合相手は藤原高子 のちの清和天皇皇后)。伊勢の斎宮のエピソードは伊勢物語初心者にはちょっとハードルが高いから。
初代瓢阿のぞろりとしたうつぼ籠にいれられたのは、めずらしい源平のシモツケ、赤いホタルブクロ、トラノオ、そして撫子。
今回の伊勢のメインテーマが<蛍>で、(これもちょっとハードル高い)業平を一目見ただけなのに恋をして、恋しさのあまり亡くなってしまう(片思いのまま死んじゃうって、どれだけあの時代の女性は弱いねん、、)お姫様の話。その父親が業平にどうか娘と会ってくれと懇願する文には唐撫子(正確にはセキチク)が添えられていた、という事を踏まえて。
懐石はいつもの中尾さん。
鱧の上にのっているのはつむぎ草。
今回も垂涎の懐石道具もあれこれ使っていただいた。石杯のオールドラリックの乳白色のちょっとはいったグラスは小さな魚のレリーフが細かくはいってかわいかったわ❤️
お酒まで凝っていて、「月の桂」にごりのスパークリング。美味しい。当日社長が直々に届けてくださったものだそうだ。伊勢では斎王にあがった恬子内親王を「月の桂」とたとえているから。
目には見て 手にはとられぬ月のうちの桂のごとき君にぞありける
八寸ではお肴に「杜若」のクセの部分のお謡いただきました。
♪ いとどしく過ぎにし方の恋しきに うらやましくも帰る波かな、、、
このクセの部分は伊勢の和歌が一杯ちりばめられているので圧巻なのだ。
ご亭主の力作、遠山の灰形はやはり富士を連想させる。今回は風炉中拝見も乞いまして、美しい灰形を堪能。
香合が時代の秋草蒔絵、蓋裏に舟。<武蔵野>か<芥川>を連想させる。
(芥川が個人的には一番すきな段なの 露とこたへてけなましものを、、、)
釜敷きが意味ありげに弓弦巻だったのは、、、実は(後ほど)
主菓子のサーブの仕方が乙女で萌え萌え(*^_^*)
八つ橋に杜若〜♪ 老松さん製「むかしをとこ」
後座入りはお鳴り物などで、と乞うがこれがでてくるとは思わなかった!!びっくり!
鳴弦なのだ。平安時代弓の弦をならして邪気を払うまじない、<芥川>で高子をさらって野原の小屋の中に隠して、鬼が来ないように業平は鳴弦している。(でも鬼=藤原の兄達にとりもどされるけど)わざわざ、この弓を調達してくださったお手間がありがたい。
後座の濃茶では、でました、真打ち!古瀬戸伊予簾手茶入「忘れ草」
(私は昔これを光悦会で見た)
三井伊皿子家伝来、遠州・江月両筆添書付きというきらびやかさ。
遠州の歌名こそ伊勢物語の「忘れ草 おふる野辺とは見るらめど こはしのぶなり 後もたのまむ」
この茶事で使ってこそ、しっくりくるものだったのだ、とちょっと感激。ちなみに歌は後涼殿でさしだされた(おそらく)入内した高子からの謎かけにたいする答え。忘れてませんよ〜ずっと忍んで思ってますよ〜という感じ。
軸は尊円法親王(鎌倉時代)和漢朗詠集・蛍
白珠裂(名古屋の料亭志ら玉のご主人よりもらって軸装されたそうです、、、白玉!)
ここからは<蛍>全開で、主茶碗も蛍がでそうな「玉川」(刷毛目 内側が粉引っぽくて渋いやつ)、茶杓が官休庵7代直斎「筧」
そして干菓子が、唐撫子の花が添えられた文である。
薄茶はそれぞれ違う茶碗で、私は瀬戸の菊花天目でいただく。これは内側の釉薬が菊の花弁のようになだれている茶碗で、菊花天目とはよくいったものだと感心する。
ちなみに銘が「神垣」。伊勢斎宮に仕える女房の歌
ちはやぶる 神の斎垣も越えぬべし、、、から。
今回の伊勢は何度も読んで挑んだにもかかわらず、ちょっと隙をつかれた〜やられた〜という感じで、其中庵さん、さすがでございました。なにより「忘れ草」の居場所がはっきりした感じで(自分の道具ではないにも関わらず)うれしゅうございましたよ。
夏の夜の 消えまたともる蛍火に 大宮人の恋を偲ばむ (腰折れ)
- 関連記事
-
- 讃州にて官休庵の茶事
- 其中庵さんの「伊勢物語」茶事
- 伯耆の国で志野流茶事(+鳥取民藝美術館のこと)
● COMMENT ●
トラックバック
http://cherubinpriel.blog.fc2.com/tb.php/1806-bfc2f8dc
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)