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2024-04

謡曲「砧」〜観世会館・片山定期能 - 2022.07.11 Mon

7月の片山定期能は「善知鳥(うとう)」と「砧」である。
善知鳥は何回か見たので、今回は茶事のテーマにも使っていながら実は通しで見たことがないという「砧」を。


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砧というと私は李白の「子夜呉歌」、<長安一片の月 万古衣打声>がでてくるが、この漢詩も、この能もベースになっているのは同じ蘇武の伝承である。
前漢の官人・蘇武は匈奴へ使いにやられてそのままとらわれの身となり約20年間辛酸をなめる。国では妻がとらわれた蘇武の耳にも届け、と砧を打った音が聞こえたという。また彼が雁に結んだ文は国元に届いたという。この逸話が曲中に織り込まれている。



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都へ所用で3年間、家をでたまま帰らない夫・蘆屋某(九州の芦屋)は郷に残した妻を心配して侍女・夕霧を送り年末には帰ると伝える。
田舎の寂しい一人暮らしに妻は、ふと里人の打つ砧の音に蘇武の逸話を思い出し、自分も砧を打ってみようと言う。本来ならば賤しい者のすること、と夕霧はたしなめるが、それでも心が晴れるなら、と砧を用意する。秋の景色、月の様など愛でながら打つ砧の音はただただ寂しい。そして東の方にいる夫の元へとこの音が届けとばかり祈るのである。



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(月岡芳年 月百姿のうち「きぬたの月」)


ところが今年も帰れないの手紙が届き、悲しさと寂しさのあまり妻ははかなくなってしまう。(ここらへんの、悲しみのあまり死んでしまう、自死ではなくて、、というところが現代人にはよくわからない)

訃報を聞き帰ってきた夫は(帰れるやん、もっと早く帰ってやれよと突っ込む)梓弓(亡くなった人の霊魂を呼ぶ)をならし、亡霊となった妻に会う。このとき面は深井(中年の女)から泥眼(悪霊になりかけ)になり、自分はこの執心の心ゆえ地獄で獄卒に責めさいなまれていると言う。砧を打つと同じく夫の前で扇を打ち付け、なんでせめて夢でも帰ってこなかったのか、と責めるのである。(そらそうだ!都で遊んでたんやないのか〜とか)
夫が読経するとその功徳により(なぜか唐突に)成仏する、、、というお話。

ストーリーを書くと他の能と同じで身も蓋もないが、それをいろどる詞章がやはり美しい。
前半の静かな秋の景色を歌いながら砧打つ場面から後半は打って変わって激しく恨みを述べるところさえ、台詞が美しいのである。

  例へつる蘇武は旅雁に文をつけ万里の南国に至りしも、、、
    君いかなれば旅枕 夜寒の衣うつつとも(打つに掛ける)
       夢ともせめてなど思ひ知らずやうらめしや


現代では単身赴任もあたりまえ、留守中けっこう羽を伸ばして亭主達者で留守がよいとのたまう奥方も多い時代、なかなか現代人には理解しがたいながら、ちょっとでも絶望的な寂しさを砧の音とともに感じられたらよいのではないかしら。





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