topimage

2017-09

「近現代における茶の湯家元の研究」 - 2013.01.13 Sun

数年前、ご縁があり、ご自宅のお茶室でお茶を点てて下さった廣田吉崇さんが、かねて大学院で博士論文としてまとめられたものをついに上梓された。

家元(画像はクリックで大きくなります)

「近現代における茶の湯家元の研究」

むつかしそうだし、読むのに時間がかかるかな、と思ったのは全くの杞憂で、研究論文でありながら読み始めるととまらなくなり、一気に読破。
ついつい家事もうっちゃって読破した宮尾登美子さんの「松風の家」以来の興奮。

おもしろおかしい筆致で書いておられるわけではなく、淡々と、むしろご自分の意見や感情は極力出さないような文体であるにもかかわらず、のめりこんだのはひたすら研究対象自体のおもしろさ。
そして、いくども熟読されたであろう参考文献・資料の厖大なデータに裏打ちされていることによる信憑性、それはあたかも理系の論文を読むが如しなのだ。

特に近代(特に江戸中期以降)以降の茶道のたどってきた道は私にはほとんど未知の世界で、たくさんの知識をこの本からいただいた。

廣田さんはお若い頃から、お茶は石州流の一派・鎮信流を嗜んでおられる。
先にお招きいただいた時に初めて拝見、、というか初めて知る流派だった。
当時、石州流という流派があるのはしっていたが、その石州流がずいぶん細かく分派していることは知らなかったし、不明にして石州流というのは片桐石州の子孫が家元で教授しているものとばかり思い込んでいた。
(まあ、裏千家でお茶を習っている多くの人が似たようなものだと思う。)
遠州流しかり、宗偏流しかり、、、、


この本は、おおざっぱにわけて3つの柱があると思うのだが、
(あくまで私個人の見解で、まちがって理解している部分もあるかもしれません、、とおことわりして)

1)家元と天皇家の距離・・家元の社会的地位の近現代における歴史的変化をあらわすのに、天皇との距離を指標として考察する、というのは斬新。
明治維新で武家社会の茶頭としての扶持=収入の道を絶たれた家元が、いかにして生き延びてきたかという歴史がおもしろい。特に裏千家の近代史はビジネスサクセスストーリーともいえる。国際化を早くに推進してきた先見性は以前から納得しているところながら、その経緯がわかってなおなお納得。
皇室が家元をある意味「利用」した時代があった、というのは目からウロコ。
「貴紳の茶の湯」と「流儀の茶の湯」の分け方が私には新鮮で、とてもすっきりして得心でき、気に入っている。

2)近代、特に明治維新以降の中小流派の苦悩・・流派統合の成功例、失敗例など読んでいて涙ぐましくなる。
(こんなにたくさんの流派があって、どういう流れで伝承されてきたか、ここで初めて知ることばかり。)
「統合」というのが「技芸の統合」ではなく「流祖の家系の統合」という手があったか。
ここまで点前手技が細分化されると、同じ流儀でくくるのは無理があると思うが、そうか、流祖が同じならいいのか。

3)宗旦と利休に血のつながりがあるのか?「利休血脈論争」・・少庵の妻は利休の娘、だから利休のDNAは今の千家に流れている、と今までなんの疑問もなく無条件に思っていた。ところがこれに大きな論争があったとは!
実は素人的にはこの部分が一番興味があった。少庵の妻、宗旦の母・亀はほんとうに利休の娘だったのか?
実は決定的な血のつながりを示す資料はいまのところみあたらず、結局結論はでない、という結論。
利休の侘び茶をよく継いだ宗旦の子孫であることにはちがいはないのだから、別にそこに生物学的血縁がなくても家元の権威はかわらないように思うが、巨大組織を統制するためには大切なポイントと考える人が多かったんだなあ。

むすびに、巧みに時代の波をくぐり抜け、巨大化した家元制度も茶道人口の着実な減少にともなって、今後どのようなシステムになっていくのだろうかという問題提示が。
本の帯に作家・北康利氏の「学術書ながら、企業経営のヒントにもなる」という書評はけだし、正鵠を射ているなあ。巨大化した家元制度の維持・発展=大企業の経営と考えれば。

   *    *   *

以前から家元の存在意義ってなんだろう、と考えることがある。
お茶をするのに、私のような末端の弟子にはほぼ関係のない距離感のある存在なので、いてもいなくてもいいんじゃないか、と思っていた。
けれどはっきりした家元制度をもたなかった中小流派の苦難の道を思う時、やはり家元って弟子すべてを同じ方向性を向かせるシンボルとして必要なのかも、と今回本を読みつつ思った。


数年前、伺ったときには、これでもか?と分化した流派の点前ひとつひとつを、時に門前払いもされつつ実際にご覧になって、その類似性、相異性について、統計学的手法で解析した論文を拝見した。
それはそれで目からウロコの視点を持つ研究で感動したのだけれど、そこから始まった研究をこのような論文に結実されたとは、実にお見事です。

過日廣田さんに、ふたたび客2名という贅沢なお茶会にお招きいただいた。
ほんとうに佳きひとときを頂戴した。
どんな質問にも丁寧に、淡々とお答え下さるお人柄は、この御本の語り口そのものでした。
ご縁をむすんでくれた茶の湯に感謝です。
関連記事

● COMMENT ●

先日お会いした折には当初のお点前比較研究を続けることの難しさを仰言っておられたような…。
でもこのご著書も面白そうですね。読む予定の本が溜まり過ぎてて迷ってしまう。

relax様

点前比較研究の論文が嚆矢となり、業績がだんだんみとめられてフィールドワークが楽になり、発表の機会も増え、それから影山先生の御指導をうけることができた、、、ということですので、点前比較研究自体はまだ本になっていませんが、やはりそれが実を結ぶ最初の一歩だったのだろうと思います。
お茶の歴史に興味のある方ならするする読めると思いますよ。
おすすめです。

といいますと、まず思い浮かべるのが西山松之助さんですね。
大変興味深いご本を紹介していただき、ありがとうございます。
一度読んでみたくなりました。
先日、古筆の会で香道のことをお聞きしましたが、やはり秘伝中の秘伝は天皇を仲介として
伝授がなされ、いわゆる各派家元のみならず三条西家にも伝わらなかったとのことでした。
書道においても同様のこと。
それゆえに天皇と茶の湯の関係には興味津々です。

N様

どういう方か、全然しらなかったのですが、本をもういちどひっくり返してみたら、ちゃんと西山松之助さんの「家元の研究」が参考文献でのっていました(^o^)
天皇も家元も時代とともにその絶対的地位は変化してきているので、相対的距離を指標にしよう、というのが面白かったです。最初どういうことかよくわからなかったのですが、読み進むとなるほど、こういうことか、と。
私のつたない説明ではわからないと思いますので、是非読んでみてくださいませ。

せんだっての勅命香を聞く会ですね?
伝授された相手は教授のプロたる家元ではなく、どういう人たちだったのでしょうか。

廣田さんが研究をされているのは知っていましたが 論文と聞いただけでアレルギー状態でした。
読まれた方は皆さん面白かったとおっしゃっていますね。私も一度読んでみたいです。
たった1行でもそれを裏付けした文を書くのは大変だったでしょうねえ。
鎮信流の点前は目が点でした。こういう点前もあるのかと。
蓋置きの位置を変えるのが驚きでした。(違ったかしら?)

伝授されるのが、作法や技術ではなく、また秘伝ですので具体的内容がわかりません。
伝授は一代限りのもので、伝授をうけた人が亡くなると伝授はその子孫に伝えられることがなく、
それで終わりです。
ただ、お香の銘のもととなった和歌などは巷間伝わるものと、後西天皇などが
銘を付けられた時の直筆の引歌と異なっていることがわかって来ています。
「磯山桜」「室の八島」などという銘のお香を聞いて、その銘を付けられた人が
なぜその銘を香木に付けられたのか、それを知るのと知らぬのとでは
感銘の差は生じるでしょうね。
作法や技術を教える教授のプロというだけでは伝授されなかったのは当然でしょう。
その香木に

ひいらぎ様

みなさん、点前の違いを大きいようにいわれますが、20%くらいの違いしかないんですよ、、、といわれて考えてみると確かに中蓋をするところや大まかな流れはほんとかわらない。あまりにも違う帛紗さばきと柄杓の構え方のインパクトが強すぎて大きく違うような気がするんですねえ。
機会がありましたら、是非ご一読を。

N様

う〜む、、伝授内容すらもれてこないって、、、
そこまで秘して、死んだらおしまいってなんのためにやっているのか下々のものにはさっぱりわかりませんわ。
その道の研究者にしても正解を知りようがないのでは処置無し、、、ですね。

しぇる様
確かに違いは20%かもしれませんね。裏千家の点前も順序は奥の点前も結局 順番は同じで 道具によりオプションがあるだけすものね。これに気がつけば 楽なんですが。他流でもよく拝見ですると 流れは同じように思いました。

ひいらぎ様

あと、裏では真の点前にふくまれるものが、平点前で散見されるのがおもしろかったです。
やはり大元はどこかでつながっているんだなあ、と思いました。
柄杓を裏みたいにかまえるのも、宗旦あたりがはじめたのでは?とおっしゃっていました。
あの所作は心をおちつけるのにほんとうにぴったりですよね。

廣田さんの本、読み応えがありましたね。緻密な検証に基づいての展開、それでいて私たちが読んでも難解ではなく、私も一気に読み終えました。次作のテーマは点前の研究ということらしく、またまた期待が膨らみます。それにしても何かと不思議なご縁ですねえ。

そらいろつばめ様

ご縁があったのか、茶の湯の世界が狭いのか、考えどころですね(^_^;
I君とのつながりもびっくりでした。
彼もいろいろ感銘を受けられたようです。
とにかく廣田さんの研究テーマは目のつけどころがすごい。普段私たちが何の疑問もいだかずそういうものだ、と思っていたことに疑問をなげかけておられますものね。
メジャーでない流派だったことが出発点かもしれません。

しぇる様

2年ほど前にブログを拝見し、感銘を受けて、僕も茶道を習い始めました。
今もこのブログを通して少しでも知識見識を得たいと思っています。

今月末、初めて初釜に行きます。ドキドキですがこんな経験を積み重ねていける喜びを感じています。 これからも素敵なブログ楽しみにしてます!!

鷲頭

鷲頭政彦様

お久しぶり、、の「ハゲタカ」さんですね(*^^*)
拙ブログでお茶をはじめられたとは、またうれしいこと!
きっかけはなんであれ、いったん茶の湯の道に入ると奥深さは際限がないです。
いろんな方向性へ道を深められる方々がおられます。廣田さんのようにね。
楽しんで、そしてがんばってください!

拝読しました

著者が同じ勤務先の人だったことに親近感を感じました。
また社会人の傍ら精進され学位(博士)を授与されたことに敬服します。
ただ、内容には不満なところが多数あるのも事実です。
一次資料の使用が少ないことですね。有栖川宮については刊本の使用が中心であり、
歴史民俗学博物館の高松宮家資料をお使いでないことなどがその例となります。
社会人ですので古文書現物に直接目を通されることは実際には物理的に不可能かと思います。
また、天皇と家元との距離については江戸時代の公家の日記などの記事の引用のないこと、
例えば江戸時代初期の皇族の茶の湯の中心であった常修院宮、中期の近衛家煕などの
資料をお使いになればよかったのになあと思います。
まあこれも望蜀の思いではあります。
P94からP96につきましては、私のいちばん興味を引くところですが、同意できません。
P99最後の3行ですが、施主が法要の中心に座るのは当然のことと思いますが、どうでしょうか。
しかしながら、全体としては茶道家元研究の新しい学問領域を開拓されました。
これからのご精進が本当に楽しみですね。
本当に楽しく読ませていただきました。ご紹介感謝致します。

N様

早速読んでくださったのですね。ありがとうございます。(私が御礼をいう筋合いじゃないですよね)
あまりにハイレベルなコメントですので、私の手には負えかねます^_^;
そういえば、同じご職場でしたね。おふたりが実際に会われて、すごくレベルの高い討論をされる空想をしてしまいました。きゃ〜!こわい!


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://cherubinpriel.blog.fc2.com/tb.php/25-b470a56e
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

泉涌寺・七福神巡り «  | BLOG TOP |  » 八瀬童子ー天皇と里人ー 〜京都文化博物館

最新コメント

プロフィール

しぇる

Author:しぇる
京都へ移住する前から書いているブログなので、京都移住後もタイトルに愛着がありこんなタイトルです。でも「もう・住んでる・京都」です。旧ブログから引っ越ししてきました。

最新記事

カテゴリ

未分類 (7)
茶の湯 (208)
茶事(亭主) (24)
茶事(客) (58)
茶会(亭主) (1)
京のグルメ&カフェ (51)
町家ウォッチング (7)
弘道館 (6)
岡崎暮らし (49)
MUSIC (4)
能・歌舞伎 (32)
京都めぐり2017 (25)
京都めぐり2016 (34)
京都めぐり2015 (34)
京都めぐり2014 (39)
京都めぐり2013 (36)
京都めぐり2012 (6)
本・映画 (8)
美術館・博物館 (50)
奈良散歩 (18)
大阪散歩 (1)
着物 (6)
京の祭礼・伝統行事 (37)
祗園祭2017 (17)
祗園祭2016 (18)
祗園祭2015 (16)
祇園祭2014 (13)
祇園祭2013 (14)
修二会2017 (4)
修二会2016 (3)
修二会2015 (3)
修二会2014 (3)
修二会2013 (3)
その他の町散歩 (2)
京都和菓子の会 (3)
イスタンブール・カッパドキア紀行2013 (8)
パリ紀行2014 (7)
英国田舎紀行2015・湖水地方とコーンウォール (7)
ノルウェー紀行2016 (4)
ポルトガル中部〜北部紀行2017 (7)
古筆 (1)
京都でお遊び (5)
ギャラリー (3)
暮らし (4)
中国茶 (23)
京都の歴史・文化について勉強 (1)
過去ブログ終了について (0)

月別アーカイブ

検索フォーム

リンク

このブログをリンクに追加する

QRコード

QR