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「一億人の茶道講座 心を耕す」岡本浩一 - 2015.08.02 Sun

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「茶道を深める」「茶道に憧れる」に続く雑誌淡交連載中の茶道心講単行本第3弾。今回新書版サイズになって、通勤カバンにも入れられるところがありがたい。前2冊に続き、いつも読むたびに自分と茶道の関わり方についてあれこれ考えさせられる、というか悩ませられる。自分は茶道を生き甲斐、とするほどのめりこんでいるわけではなく、しいていえば奥伝まではいったけれど、茶道との心理的距離についていまだ測りかねているというところか。

連載の体裁なので一節一節はほどよい長さでどこからでも読める。たいがい導入部は茶道ではなく古武術であったり将棋であったりロックギターであったりする。最終的に茶道に収束されるのだが、逆に言えば語っているのは茶道だけでなく人生のあれこれすべてに通ずる一つの真理をいろんな方向から語っておられるように思う。自分の人生や茶道を習ってきたことを振り返れば、思い当たる箇所がいくつもあるし、納得がいく。納得がいくが時に一般人には厳しすぎるところもある。だが、どれも(若干むつかしい単語が多いが)座右の銘として書き留めておきたいような文章でしめくくられており、これに励まされることは多い。

奥伝が身についてはじめて初心の草の点前の意味や解釈が理解できる。歴史的な意味や背景がわかりはじめる。真の点前が確かな人とそうでない人の草の点前はあきらかに違う。型に自分を追い込んでいって初めて得られる「自在」というものがある。経験を磨いて初めて心に映り目にも映る美とことわりがある。

茶道心講にくりかえし形をかえ奏でられるテーマだと解釈している。だからがんばってさらに茶道の奥をきわめよ、と叱咤されているような気持ちになる。しかし、そこまでいかない茶道との距離の取り方でもそれなりの癒しがあると逃げ道も用意してくれているのでご安心を。

深くうなずかされたのが、小学校で円周率を「3」として、未知の科学の世界に不思議さや好奇心を覚えるきっかけを失わせたという一節。実生活で円周率を使う場面はほとんどないと同じように、実生活で貴人点をしらなくて困ることはまずないだろうが、これを習うことによって二段階の丁寧さの自然な区別を身につけることができると。これは上の点前にはいってから、茶入が和物から唐物にかわり茶碗が天目になったときの所作の違いをロジカルに理解し、背後のさらなる茶道の世界の広がりを知る一歩になるのではなかろうか。
さらに経験された茶事、茶会の主として客としての真剣勝負のエピソードは自分でも茶事茶会をする人なら多少の羨望をもちつつむさぼるように読んでしまうだろう。

かくてこの本を読みつつ、もっと背筋を伸ばして茶道に向き合わねばならない、と思ったり、自分は茶道にそれほど切実でないことにがっかりしたり、これからどういう茶の湯をしたいのかしっかり目標をもたねばならん、がどうしたらいいのか方向性がよくわからん、と悩んだり、そうあれこれ考えること自体が実は心の贅沢なのではと思ったり。

ただ心しておかねばならないのは、そういうことを考えている自分に酔っていないかということ。増上慢について以前お叱りをうけたことがある。反省しつつもすぐに忘れて思い上がり、またたたかれて反省する、の繰り返し。凡人であればすぐに悟りはひらけぬのはしかたないが、それでもそれを叩いて下さる人がいるということはありがたいことだと思っている。

最後に「市井の茶人」として励まされ心にとめておきたい一節を。


仕事をし、仕事のストレスに苛まれ、家庭人の務めも果たし、、(中略)、、茶道の稽古を日常のものとする。そういうありようは、やがて茶境にも、そして、本業やあるいは「人としてのありよう」にも透徹や豊かさをもたらしていく。茶道を真の余技として、一年一年時間を重ねていく贅沢をときには心に留めつつ生きたいものである。


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